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株式会社大学教育研究所
 
 
主要大学の動静分析レポート

●東京大学
今回は99人と久方ぶりに3桁の大台を割ったものの、国会議員の輩出人数で、飛び抜けた実績をもつトップ大学。当選者の平均年齢が51.9歳と全平均より若いうえに、当選回数の多い実力者が多い一方、初当選者が29人(29.3%)もおり、次世代に向けた人材準備も万全といえそうだ。
東大で特筆すべきは、党派的な偏りがみられない点。大勝した民主党が占有比的にはむしろ少ないほどで、自民・公明・共産・社民・国民・みんなの各党から無所属まで、当選者が散らばっているのはさすがというほかはない。
また、法学部→エリート官僚を経た当選者が多い一方で、総合大学・東大を象徴する要素として、法学部以外の学部出身者が増えているのも見逃せないところ。とくに、次期総理の鳩山由紀夫はじめ、工学部出身の当選者が10人もいる。具体的に何を専攻したかの詳細までは不明だが、早慶などではみられない現象である。
ちなみに、全当選者99人のうち、法学部出身者が67人のほかは、経済=11人、
工=10人、教養=4人、農=4人、文=2人、医=1人の分布となっている。今後の新しいソフト社会への変容を想定するなら、教養・農・文・医(看護)などが、二桁クラスへの当選者増大が望まれよう。

●早稲田大学
前回総選挙では、小泉劇場の異名どおり、作・演出・主演を独占したライバル=慶應の激しい追い上げをうけたが、今回は上位=四天王の中では、唯一当選者を拡大し、より一層、上げ潮基調が強まった。
年齢・当選回数などの各平均数値は、東大とほとんど変わらないが、女性の当選者比率が上位校のなかでは一番高い(8.82%)点が注目される。また、平均年齢が前回の53.3歳より1.4歳若返ったし、当選回数がほぼ1.0回少なくなった。それだけ、初当選の30代40代増えたということだが、その数は民主党からの当選者で、45人のうち3割を超える人数に上っている。
しかも、その多くが、大学がある東京ではなく、北海道・東北・信越・中京・関西・中四国地区から選出されていることは大きな注目点だろう。
なぜなら、同大学は90年代に入り、ワセダの精神的原点として、グローカリズム(グローバルな視点をもった地方主義=ローカリズムの合成語。広義の愛郷主義的な精神)を謳い、学力(偏差値優等生)のみに依らず、荒削りな地方出身の高校生を積極的に入学させるなどの諸施策を採用してきたからだ。
その効果を客観的に測定することは、現時点では無理だが、新しい時代の政界人材を育てる芽は育んでいるようで、人づくりの機関である大学として見逃せないポイントではある。
二年前に行なった基幹・創造・先進をキーワードとする<理工学部>の改変には、科学的素養が豊富な“政界人材”育成をも目指すという遠大な改革ポイントが込められていることは「知る人ぞ知る」事実だ。

●慶應義塾大学
前回総選挙の最大の元気印だった慶應義塾大学は、前回当選者数のちょうど4分の1が落選もしくは引退したことで、最近の勢いからはやや寂しい45人の当選者にとどまった。
前回はその前に比べ2.1歳も若返ったのだが、今回の選挙ではまた逆戻り。東大や早稲田より1歳も平均年齢が高かった。平均当選回数も、全当選者平均が3.55回と一気に3回台に下がったのに、慶應義塾大では、逆に4.91回と前回以上のレベルに上がっている。
その善し悪しは意見が分かれようが、当選10回クラスのベテランや3〜5回の中堅層は多く当選し強さをみせた一方で、早い話しが、綿貫民輔や堀内光雄の落選、小泉純一郎の引退に代わって、政界の新陳代謝を担うべき新人の当選や元職の復活が十分ではなかったということだろう。
象徴的なのは、今回選挙で64.2%の議席を取った民主党の当選者数比を大学別に比較すると、慶應が上位有力校の中でもっとも“民主党占有率”が低く、55.6%だった。ちなみに、当選者数を増大した早大は66.2%、日大は63.6%だった。
今度の慶應出身の初当選者が、すべて民主党からの立候補だったことを考えると、前回選挙での自民党の大躍進と、そこでの中核的活躍があったから、世代交代や強いとか有力とかいわれた政党への転身を妨げたという見方もできそうだ。
もっとも、当選者は減少したものの、当選者の顔ぶれをみると、新しい民主党政権でも、政権交代の立役者といわれる小沢一郎や、年金改革のシンボルと目されるミスター年金=長妻昭をはじめ、中井洽、小平忠正、山岡賢次、海江田万里、松野頼久、長島昭久など、閣僚や党の中枢を担う人材が目白押しで、慶應党の活躍はまだまだ続きそうだ。

●日本大学
グングンと勢力を伸ばしている日本大学の足跡は、00年(第42回)に14人だった当選者が、第43回=18人、第44回=19人と増え続け、今回は初の20人の大台(22人)を記録したことで、一目瞭然である。
同大学の場合、当選者の平均年齢が高い一方、初当選率が40.91%と上位校のなかでも異常に高いという二律背反的記録が残されている。古賀誠、中村喜四郎、園田博之などのベテラン、奥田健・梶山弘志・佐藤勉・鴨下一郎などの中堅、そして民主党所属の30歳40歳代の若手がバランス良く当選していることが大きな特徴だ。
もっとも、初当選者の中には、いずれも民主党だが、石津政雄や柳田和己といったアラカン世代や、県議や地方自治体首長出身の50歳代も多く、地元に根を張った強さ、勢いを感じさせる面々が少なくない。
もう一つ、日大伸張の秘密として、全国に多くの系列高校・中学校を有している点、さらには、同大学は母体が法律学校でありながら、日本最大規模の総合大学であることを強みと考え、早い時期(昭和50年代前半頃)から法律色(志向)を脱却。人間としての総合力強化を謳い始めたことが、この伸張ぶりと連動した要素として見逃せない。
これは、早慶の両大学や東大・京大などにも共通する要素だが、日大は大学の構造そのものから、どの学部でも専門性そのもの以上に時代の変化に対応できる基礎力・総合力・教養教育への志向を強めてきた経緯がある。
実際、その学問的性質と伝統から、法学部出身者が9人と多いが、経済学部=4人、理工・工系=3人、芸術学部=2人、商学部=2人、医学部=1人、文理学部=1人と、出身学部の分布は多彩そのものだ。
この点でも、今回は当選ゼロだった生物資源科学部(旧:農学部)や歯学系学部、さらには“元気な社長をつくる”学問分野横断型の大学院=グローバル・ビジネス研究科などがあり、まだまだノビシロが十分残っていそうだ。

●京都大学
当選者数が隔回ごとに、増えたり、減ったりする特徴をもつ京都大学だ。第43回総選挙(03年11月9日執行)で、その前回の20人を24人に伸ばしたものの、次の第44回(05年9月11日執行)は18人に減少し、今回再び3人増え、再び20人の大台に復活した。
大学の立地から、近畿地区や西日本地区からの当選者が大半だが、元職の返り咲き組が約20%(4人)もいること、上位の6大学の中では、唯一、女性当選者がゼロであることなどが特筆される点だ。
東大に比べると5分の1程度の当選者数にもかかわらず、その割には、自民党政権時代から、伊吹文明・村田吉隆などの実力者が多いことがこの大学の特徴だった。
今度の新しい政権に変わっても、内閣や党の中軸を担う実力者・政策通が雲集していることは、川端達夫、前原誠司、細野豪志、山井和則らの名前を挙げれば、十分だろう。

●中央大学
今回の総選挙で、もっとも著しく退潮を印象づけてしまったのは東大や早慶両大学とともに国会議員輩出大学の『四天王』と呼ばれてきた中央大学だ。
何しろ、この4大学は、当選者人数の変動はあるものの、衆参を問わず、毎回の全当選者数の半数強(前回総選挙例では250人、52.1%)を占めてきたのがこの4大学であり、強さを発揮し続けてきたカルテットだった。
ところが、その中央大学が、前回当選者より8人(前回比30.8%)も減り、20人の大台を割り18人にとどまった。日本大学に第4位の座を奪われたのみならず、復調基調にあった京都大学にも抜かれ、第6位に転落したのだ。
突然の事態ではない。第42回総選挙には30人の大台を記録して以降、毎回当選者数の減少を続けており、直近の参院選でも、規模的にも比較にならないほど小さいICU(国際基督教大学)に肉迫されるなど、地盤沈下が激しいのだ。
同大学の退潮を象徴しているのは、元気のいい20歳代30歳代の若手がなかなか登場しないこと。もう一つは、頑なほどに法学部の看板主義が未だに根強く、政界人材の顔ぶれに伸びやかさ、広がりが感じられないことだ。
実際、今回の当選者の内訳をみても、18人中13人(72.2%)が法学部出身者で、その偏りは上位6大学のなかでも異常と映りかねないほどだ。法学部はいわゆる「つぶしのきく万能学部」として人気を集めてきたが、元来、前例重視主義的で、学問的なおもしろさや自由度が高い学問分野ではない。
そのうえ、群馬1区から選出された作家でもある宮崎岳志や、辞達学会(=同大学の弁論部)幹事長の経歴をもつ斉藤進(静岡8区)などの30代の有望な新人も当選しているものの、絶対的な当選者数の不足や当選者の高齢化などがあり、早稲田や日大に感じる伸びやかな要素が少なすぎるのである。
その点で、理工学部出身の平野博文が新政権内閣の中枢を担うのは、暗夜の光明か。それよりも、ここでは、これまで眼下に見下ろしてきたはずの上智大・一橋大・明治大の足音が聞こえるところにきている事態を深刻に受け止める必要がありそうだ。
(文中敬称略)