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株式会社大学教育研究所
 
政界・出身大学分布図の『地殻変動』


◆衆院での大卒者数 95%におよぶ


さる8月30日(日)の衆院選では、55年におよぶ自民党政権が崩壊し、下野。民主党が全当選者の64.0%におよぶ絶対的多数の第一党になり、政権交代という大きな地殻変動が起こりました。
選挙結果の勝因や敗因の分析や、次期政権の発足に向けた報道合戦は、硬軟取り混ぜて騒々しいほどですが、それぞれに新しい時代に向けた変化の視方(=みかた・診方)を提供してくれます。
当大学教育研究所では、衆参選挙・都議選などの主要選挙のたびごとに、「大学」という視点から選挙結果を分析、その属性(当選者の年齢・性別・当選回数・専攻学問分野等)から、大学の成り立ちやカリキュラムの特質、人材育成の手法や将来性といったものを拾い挙げるべく、調査を続けています。
政界は国政・地方議会を問わず、驚くほどに高学歴化が進んでいる分野であることに着目し、1993年から調査を始めました。では、さる8・30の革命的な地殻変動のなかで、政界の出身大学勢力図に何らかの新しい震動は生まれているのでしょうか。

◆東大・慶大の減少で“勢力図” 異変

今回の選挙では、東京大学が過去3回続けてきた100人超の当選者を二桁(99人)に減らしましたし、慶應義塾大学も前回より25%も少ない15人の減少(当選者45人)を記録するなど、上位大学には異変がありました(「大学別当選者数ランキング」を参照)。


◆日本大の伸張と中大の退潮

ここで最も注目されるのは、日本大学の勢力拡大でしょう。00年(第42回)に14人だった当選者が、第43回=18人、第44回=19人と増え続け、今回は初の20人の大台(22人)を記録、出身大学別当選者数ランク第4位に浮上しました。
日本大学出身者の伸張ぶりは、04年の衆院選と参院選の時にその萌芽を見て取り、前回選挙(05年9月11日)時点から確実な手応えある動向として注目し続けてきました。
実際、“総選挙の前哨戦”と目された先の都議選でも、日大勢は出身大学別最大人数の13人の当選者を出し、その底堅い強さを実証。今回の衆院選での勢力拡大を予想させるに十分の内容でした。

◆崩れた 国会議員輩出“四天王”の一角


これとはまったく逆に、退潮著しいのが、東大や早慶両大学とともに国会議員輩出の『四天王』と呼ばれてきた中央大学です。この4大学は、衆参問わず、過去の国政選挙において人数の変動はあるものの、変わることなく上位を独占してきたカルテットでした。
何しろ、毎回の全当選者数の半数強(前回総選挙例では250人、52.1%)を占めてきたのがこの4大学であり、まさに「四天王」の名に相応しい強さを発揮し続けてきたといえます。
ところが、今回の総選挙では、その一角だった中央大学が、前回当選者より8人(前回比30.8%)も減り、20人の大台を割り18人にとどまりました。日本大学に第4位の座を奪われたのみならず、復調基調にあった京都大学にも抜かれ、第6位に転落したのです。
同大学は、参院での現有勢力がまだ健在なため、四天王の座を明け渡したとはいえないものの、地盤沈下は否定しようがありません。

◆出身大学数が「86」から「93」に増えた意味


今回の選挙では、冒頭に掲げたとおり、東京大学や慶應義塾大学も当選者を減らすなど、上位大学には注目すべき異変がありました。
逆に、政界ではアウェー的存在とみられてきた京都大学・立命館大学・大阪大学・神戸大学などの関西の国私大勢、一橋大学・東北大学・北海道大学・横浜国立大学といった旧国立一期校の有力大学が揃って当選者を増やしているのは、政界地殻変動の新たな事象として刮目しておく必要がありそうです。
さらに、広島大学・弘前大学・埼玉大学・千葉大学・徳島大学・琉球大学などの地域色を持った国立大学が複数の当選者を出したこと、1〜2名の当選者ながら、跡見学園女子大学・東京国際大学(旧:国際商科大学)・関東学院大学・桃山学院大学・広島修道大学・日本文理大学(旧:大分工業大学)といった、ニューフェースの大学も登場したことなどから、出身大学の偏在が薄まりつつあることを今回総選挙の大きな特徴として捉えることができます。
数字上も、前回の選挙で当選した大卒者(中退者含む)は467人でしたが、大学数は86大学でした。これに対して、今回の選挙で当選した大卒者(中退者含む)は455人と少なかったにもかかわらず、大学数は逆に93大学に拡大しています。
国民目線に立った政権交代だったということで、特定のエリート大学に偏ることなく、それぞれに特徴を持った大学の出身者が、さまざまな思いや地域を代表して広範な政治参加が行なわれたあとが、ここからも窺えます。

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